印傳の吉祥模様ー縁起を祝うー

人々が生活する中で身近に使用する品に芸術的な模様を施したものを工芸品といいます。工芸品の模様には吉祥模様が多く、鹿革で作られた印傳や甲州印傳に見られる模様もまた、祈りや願いが込められた模様が群を抜いて遺されています。鹿革の特徴の一つに加工のし易さがあり、様々な革の中でも細かな装飾が出来る革として知られています。
主な装飾方法に、藁などの煙で染色する燻技法・藍染・墨書・型紙を用いた漆付け技法・染料を重ねて多色の模様をつける更紗技法などがあり、それらの技法を駆使して写実的な模様から大胆な抽象模様まで様々な模様が描かれています。
吉祥模様では特に植物模様が多く、菖蒲・小桜・菊・唐草が散見されます。菖蒲や小桜は戦国武将が武運を祈り、鎧兜や武具に好んで用いた模様です。
菊や唐草は不老長寿や繁栄への願いが込められた模様です。切れ間なくリズミカルに面を覆う唐草模様は異国の情緒が加わり、独特な雰囲気を漂わせています。また、松竹梅に代表される模様も日本では古くから愛用されています。
植物以外では、富士山・扇面・七宝・鶴亀・想像上の生き物である鳳凰や龍などが模様のモチーフに多用され、瑞兆や開運を求める気持ちを反映しています。
日本は災害も多く、戦後の復興などたくさんの苦難を乗り越えてきました。苦しい時が早く終わるように、生活がより良いものになるようになど様々な願いを身近な品の模様に表すことで心を重ねてきたことがうかがえます。
今回は鹿革工芸に施された吉祥模様の中での代表例をご覧いただきます。模様の抽象表現や絵画的表現にも目を留めていただき、前途を祝福し良い事が起こるようにと縁起を祝う模様をお楽しみください。

【印傳の吉祥模様-縁起を祝う- 令和6年3月9日(土)~令和6年6月16日(日)】