印傳の提物―莨入―

提物とは腰に提げ物を入れて携行する装身具の総称です。着物の帯に提げて携行することにより紛失や盗難を避けることが可能でした。江戸時代になると印籠・巾着・早道・莨入等、様々な素材や形状の提物が作られ、洒落や粋を愉しむ装身具として注目されるようになりました。
莨入は刻み莨と煙管による喫煙の風習の拡がりと共に発達したと考えられます。莨入の形状は主に、叺(かます)と呼ばれる刻み莨を入れる袋の部分と煙管を入れる煙管袋の部分から成ります。携行する形式により「一ツ提」「提」「腰差」「懐中」などに種別されています。材質は革をはじめ布・木・竹・角等の例が見られ、付属の金具や根付・緒締にも様々な技巧が凝らされるようになり、持ち主の趣向が反映されました。
鹿革による莨入は、軽く丈夫な上、加飾のし易さなどの特徴が活かされており、叺と煙管袋に多く用いられています。革の表面に漆を塗った「地割印傳」「松皮印傳」は内容物の保護という役割だけではない力強さが模様に表れ、その独特な雰囲気に合った根付や緒締が付属されているのも見所の一つです。
今回は提物の代表例である様々な形状の莨入を特集しています。当時の革工による鹿革の装飾と共に、調和のとれた付属品の多様な工芸もお楽しみください。
【印傳の提物-莨入- 令和4年12月3日(土)~令和5年3月5日(日)】
※休館日令和5年1月1日・2日