菊模様―鹿革にこめた願い―

秋の花の代表とされる菊は元々、中国から伝来してきたといわれています。平安時代に入り、和歌などに詠まれるようになり、武具や様々な工芸品にも菊の意匠が用いられるようになりました。国内で様々な品種改良がなされた菊は、強い香や花期の長さも好まれ、長寿のいわれや「齢草」(よわいぐさ)などの異称を持ちます。菊慈童の物語と共に重陽の節句には菊酒を飲むことで厄を払い、延命長寿への祈りをこめています。
印傳や鹿革工芸に見られる菊の模様は、財布や袋物に多く、漆付けや染の技法によるものです。紋章のように細部を略し図案化した模様や、花や枝を忠実に具象化した模様も見られます。
身の回りの品を入れる袋物や財布は今も昔も変わらぬ日常の小物です。暮らしの品に菊の模様を取り入れ、日々の平安や不老長寿、一族の繁栄などの願いをこめてきました。多様な模様を表現できる素材としてもてはやされた鹿革工芸には、生活の向上を願う模様が数多く描かれており、現在に至るまで変化に富んだ様々な菊の模様が作られています。
季節の移ろいに敏感であり、幸福を願う日本人の想いを表した菊の模様をご覧ください。
【菊模様―鹿革のこめた願い― 平成30年9月15日(土)~12月2日(日)】